1)航空機騒音と環境基準
国土交通省は本格運用開始する前に、実機飛行確認を実施し騒音測定を行い公表しました。測定場所は国立医薬品食品衛生研究所(川崎区殿町)で2020年2月7日に測定した騒音が最大94dbで92db以上の測定時間は約5秒を記録しています。
環境基本法(平成5年法律第91号)による騒音基準
生活環境を保全し、人の健康の保護に資するうえで維持することが望ましい基準は、①療養施設・社会福祉等が設置する地域は50db以下(夜間40db)②住居の用に供される地域は55db以下(夜間45db)③住居・商業・工業地域は60db以下(夜間50)に定めている。
航空機騒音に係る環境基準
専ら住居の用に供される地域はLden57db以下で前項以外の地域はLden62db以下に維持することが望ましい。
2)低周波音(汐見文隆医師の著書から学ぶ)医学界では昔から、 聴覚には気導音と骨導音とがあるとみなしてきた。 人間の頑丈な頭蓋骨は遮音壁の役割を果たし、耳介という集音器で集めた音を外耳、 中耳というトンネルを経由して内耳に導く。 これが気導音だ。 一方、 頭蓋骨を通して振動が直接内耳に到達するのが骨導音である。 低周波音は耳に聞こえない骨導音として頭蓋骨を貫通する。
低周波音被害者の悲劇は、 聞こえない音なのに騒音被害よりはるかに苦しいこと、 同居する家族の間でも個人差が大きいこと、 つまり周囲の人に理解されにくいことである。 そして著者は35年間の研究で、 まったく別問題である騒音被害と低周波音被害とを区別することが重要である。
大阪国際空港公害訴訟(1969年)における身体症状は、裁判の記録によると次の様なものです。
①難聴、耳鳴り ②頭痛、肩こり、めまい ③吐き気、食欲がない、胃腸障害 ④心臓の動機、昏倒、失神、高血圧 ⑤未熟児、流産、幼児の発育阻害 ⑥鼻出血 ⑦せき、喘息症状、気管支炎等 ⑧ホルモン系への影響 ⑨手足の震え、冷たい感じ ⑩イライラ、ノイローゼ等、不眠
低周波公害を提唱し始めたのは、1975年ですから大阪国際空港訴訟の当時は低周波公害の知識がなく、これらの症状は全部騒音の為と考えられたようです。授業中に鼻血を出す生徒がいますが、空港周辺の小学校では、二重窓にしても改善されません。低周波なら防音教室にも遠慮なく入ってきますから犯人は低周波音とすんなり考えるのが正しいのです。
3)航空機騒音が健康に与える影響
松井利仁 北海道大学環境工学教授の講演(2021年1月)
「羽田空港増便問題を考える会」の主催で、騒音が健康に与える影響について講演が行われました。航空機騒音による健康被害は、低周波音による健康被害と類似していますが、特に心疾患死亡リスク、脳卒中罹患リスク、高血圧リスク等と関係することが明らかになっています。
特に夜間の睡眠障害が健康に与える影響が大きいことも解っています。乳幼児の場合は、夜間に限らず日中も睡眠をとるが、騒音による睡眠障害は成人よりも影響を受けやすく、成長ホルモンの低下に繋がることを危惧しています。最近の調査で睡眠は記憶を固定する時間帯であることも解ってきています。言い換えれば記憶の低下に繋がることになりかねない。航空機騒音の特徴は変動特性が大きく一般的な騒音と比較すると人体に対する影響が高いと言えます。
現在の騒音基準は、50年前に定めた基準を用いています。WHOは健康を維持する為に基準を定めていますが、日本では健康を維持するための基準は無く早期の改定が必要なのです。